相利共生 —種間の協力—
異なる生物種間で互いに利益を与えあう関係は相利共生と呼ばれていますがその存続を脅かす要因の一つは個体の「裏切り」です。一方が協力して利益を与えたのに相手が協力し返してくれなければ、どちらかが損をする形で相利関係が崩れてしまいます。私たちは関係を持つ個体同士が互いに相手の質や潜在価値を認識し、協力的な振る舞いを可塑的に変化させることが関係を維持する上で重要だと考えています。アリとそのパートナー(シジミチョウ・アブラムシ・植物など)の共生関係を題材に、共生パートナーが分泌する化学物質の機能やアリの学習・認知能力の解析などを行うことで、相利共生の実情に迫りたいと思います。
昆虫の社会 —種内の協力—
アリは高度な社会を形成する真社会性昆虫であり、陸上生態系で最も繁栄した生物の一種として知られています。血縁関係にある個体が集まり、もっぱら繁殖する女王や自らは不妊で労働に特化したワーカー、巣の防衛に特化した兵隊など様々なカーストが分業することで協力的な社会を作ります。昆虫社会組織には中枢での指示系統は存在せず、各個体のローカルな反応の積み重ねで集団の振る舞いが決まります。そのため個体間の綿密なコミュニケーションが重要になってきますが、アリは聴覚や視覚よりも味覚や嗅覚といった化学感覚を主に用いて情報を伝達します。いわゆる「フェロモン」です。そのようなアリのフェロモンコミュニケーションを化学物質・行動・脳・遺伝子レベルで解析し、昆虫社会の成り立ちを理解したいと考えています。